MSXの設計はよくできてるという話

SNSサイトでMSXパソコンの話題になり、個人的な思いを語りたくなったので書きます。

MSXの設計は1983年当時としてはよくできていたと思います。MSX-BASIC(マイクロソフトBASICの流れをくむ枯れた命令セット、ディスクフォーマットがMS-DOS互換で他機種とデータのやり取りが容易)、拡張スロット(ドライバ不要でプラグ&プレイを実現していた)、MSX-DOS(ディスクフォーマットはMS-DOS互換でシステムコールCP/M互換)、多様なスクリーンモードや多言語対応(ASCII文字のほか、ひらがな/カタカナ/漢字、ハングル文字、キリル文字アラビア文字などの地域別規格があった)、専用ディスプレイが不要(RF出力やコンポジット出力で家庭用テレビをディスプレイに利用できた)などなど。

MSXを企画した西和彦さんはビデオのVHS規格のようなコンピュータの標準規格を作りたい考えていたそうで、製造メーカーが違ってもMSX規格に準じていれば基本的には同じソフトが動くという設計思想は画期的だったと思います。これはソフト会社と消費者の両方にとってメリットがありました。また台数が出れば共通部品(CPUやVDP、音源チップなど)の単価が下がり安く作れるという目論みもあったのでしょう。
この設計思想に賛同したメーカー各社(パナソニック(松下電器)、ソニー、三洋電機、東芝、三菱電機、パイオニア、ビクター、ヤマハ、カシオ、キャノン、海外ではフィリップス、LG、大宇電子など)がこぞって製品を出していました。なお、MSX規格に準拠していれば各社で独自設計することが可能だったので、例えばヤマハMIDIキーボードやFM音源とつながるDTMシステムをつくったり、パイオニアはLDを使ったマルチメディアシステムをつくったりしていました。またカシオはMSX規格をぎりぎり満たしたMSXをつくって定価29,800円で発売したりしていました。(他社製が平均5万円だったので破格だったが機能も最小構成だったので全く実用的ではなかったらしい。)

いまでいえば、GoogleAndroidと目指すところは似ているかもしれません。

ただMSXは一般家庭に広く普及するまでは至りませんでした。敗因は、とにかく価格を安くするためにMSX1の基本仕様をチープ(メインRAM 8kB以上、VDPはTMS9918相当でVRAM16kB など)にしてしまったこと(この基本仕様はとにかく安く作りたかったカシオが主張したらしい)で、当時パソコンユーザーの主な用途のひとつだったゲームに使うには同世代のファミコンに比べて高価なわりにグラフィック性能が低かったことなどでしょうか。
このMSX1の仕様が足かせとなりMSX2の普及が遅れ、そうこうしているうちにMSX2も見劣りするようになり、MSX3はお蔵入りになって中途半端なturboRで幕を閉じることになったのだと思います。
また当時NTT(旧電電公社)が推進し、ニューメディアと呼ばれて期待されたネット端末を安く作るためにMSXが企画された節もあり、これが流行らなかったのもMSXが廃れた理由のひとつかもしれません。

それでも全世界で約400万台売れたという実績は、まあまあ成功と言える...かなあ?
いまでも日本のほかに海外でもオランダやブラジルなどでは細々と同人ソフトが作られてるとか。

ちなみに、自分がMSXを使いはじめたのは1993年頃です。世間でMSXが現役だったころはまだ幼稚園生で、各社のMSXが生産中止になったころに中学校の理科準備室でホコリをかぶっていたMSX2を見つけたのがはじまりです。当時はパソコンが家になくて欲しくてたまらなかったので放課後に友人数人でカチャカチャやってました。